公益社団法人 全国出版協会

出版科学研究所

出科研コラム

矢祭町の読書教育・環境整備

 全国出版協会の姉妹団体、(公財)高橋松之助記念顕彰財団主催による今年度第18回「文字・活字文化推進大賞」は福島県矢祭町に決定した(詳細は高橋財団HP)。
 同町では2007年に全国から寄贈された本により開館した「矢祭もったいない図書館」を中心に読書活動を推進しており、同年に「読書の町矢祭宣言」、2021年に「読書条例」を定め、町の重要施策として取り組んでいる。
 「手づくり絵本コンクール」をはじめ、様々な読書活動を展開しているが、特に目を見張るのは子どもたちへの読書教育・環境整備だ。全国に先駆け2009年にスタートした「子ども司書」制度は、2023年度より小学校の教育課程に組み込み、現在全児童が受講している。カリキュラムでは、図書館の本や分類、POP作成や絵本の読み聞かせ、ビブリオバトルの実施からNIE教育まで網羅されており、年間を通じ非常に豊かな読書教育が行われている。履修後、子ども司書の認定を受けた児童は、子ども読書推進リーダーとなり、地域の行事で読み聞かせや本の紹介を行うなど、読書の素晴らしさ・楽しさを自ら発信している。
 ブックスタートから、年齢に応じたおはなし会やワークショップの実施、家読や朝読も活発に行われるなど、読書環境が整備されており、小さな自治体であるが、図書館、学校、地域、家庭が一体となり、出来うる限りの読書活動を展開していることが高く評価された。
 ただ一つだけ残念なのが、“無書店自治体”であることだ。これほど読書活動を展開している同町でも書店が存在しないことに現実に引き戻される感がある。この豊かな読書環境のなかで、書店を始める人が現れてくれたら、と選考者の一人として願わずにいられない。
 「季刊 出版指標」2025年秋号の第1特集では「新しい本屋のカタチ」として、今あらためて注目されている独立系書店や取次の新たな取り組みなど取材を元に現状をまとめた。ぜひご一読いただきたい。(原正昭)
「季刊 出版指標」2025年秋号巻頭言より

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