公益社団法人 全国出版協会

出版科学研究所

出科研コラム

節目の年

 2024年はあらためて“書店”に注目が集まった年だった。経産省「書店振興プロジェクトチーム」の設置から車座ヒアリングを経て、政府の「骨太方針2024」では、書店と図書館との連携などによる文字・活字文化の振興と、書店の活性化等の内容が盛り込まれた。10月には「書店活性化のための課題(案)」が公表され、約1カ月間パブリックコメントを募集、今後具体的な政策への反映が期待される。
 読売新聞の世論調査での、国や自治体による書店支援に79%もの人が「賛成」と答えたという結果は、書店に対する人々の強いシンパシーが現れており、出版業界の一員として素直にありがたいと感じる。もちろんまだ何一つ解決しておらず、こうした間にも書店閉店のニュースは続いている。
 インターネット・SNSの普及により、人々の情報伝達に革命的な変化が生じ、出版業界にも大きな影響を及ぼしたが、現在、世の中はフェイクニュースに溢れ、情報の真贋の見極めがかつてないほど求められている。
 人間はすべての欲望を言語化できていない。無意識下に欲している新しい価値観と出会うのに、自身の現在の興味関心や考え方から、半歩先をいった情報を得るのに、書物は、街の書店はこれからも欠かせない。また、複雑になりすぎた社会を生き抜くために、心休まるような娯楽も必要だ。それはある人には漫画であり、小説であり、絵本かもしれない。
 出版という業種の強みは、対象が世の中の森羅万象全てであり、人々の興味関心や生活がどれだけ変わろうとも、今後も新しいニーズを見つけ、書物は生まれ続けていくであろう。それは歴史が証明している。
 さて、2025年がスタートした。戦後80年、昭和100年、あるいは21世紀の第一四半世紀と様々な節目といえる年だが、文字・活字文化振興法制定から20年の年でもある。
 実りある年としたい。 (原正昭)  「季刊 出版指標」2025年冬号巻頭言より

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