出科研コラム
子どもの読書の現在地
4月1日に「書店・図書館等関係者における対話の場」のまとめが公表された。公共図書館の「複本問題」では、図書館の新刊購入による書籍市場全体への売り上げの影響は大きくないものの、一部のベストセラーには小さくないことが確認、共有された。出版社・書店・図書館間の話し合いのなかで、「複本」が売り上げに影響があると認められたのはおそらく初めてであり、画期的な内容といえる。しかし、それ以上に重要なのは「書店・図書館等関係者が協力し、読者人口を増やすこと、「読者育成」を目指すことに大きな意義がある」とまとめられたことだ。
季刊24年春号と本号の2号にわたり「子どもの読書の現在地」として子どもの読書の現状と、それを支える学校図書館および書店の状況を見てきた。このなかで、ひとつ言えていないのが公共図書館についてである。身近な書店の数が減少し、危惧されるのは、未来の読者となる子どもたちの読書環境であり、こうした意味でも公共図書館の存在はより重要になってくる。現在、学校図書館と自治体との連携は進められているが、来館する市民へのサービスだけではなく、地域の読書推進のハブとして、営利企業ではない公共図書館だからこその役割が期待されている。
いま、「街の書店」を支援する経産省のPTが大いに注目されている。しかし、書店も一方的に庇護されるべきものでは決してない。公共図書館をはじめ学校図書館や読書ボランティアなどとの連携を強化し、地域の読書環境を支えていく具体的な取り組みがこれまで以上に求められている。
重要なのは、地域、生活、経済状況に左右されない、誰もが読みたいと思ったときに、読みたい本にアクセスできる環境整備を、地域の図書館や書店、そして出版業界全体で行っていくことであり、「読者育成」を一丸となり進めていくことだ。(原正昭)
「季刊 出版指標」2024年夏号巻頭言より