公益社団法人 全国出版協会
3月3日、作家・西村京太郎氏が亡くなった。
西村氏と言えば、トラベルミステリーの第一人者。1978年に『寝台特急殺人事件』(カッパノベルズ)を刊行して以降、数多くのトラベルミステリーを輩出してきた。
西村氏の作品は、当研究所のデータを調べると1991年から2022年2月の間だけでも1,423点が刊行されている。その内訳は、単行本11点、新書519点、文庫893点(アンソロジー作品、コミック、大活字本を除く)と実際の作品数より多くなっている。これは、価格変更、新書から文庫などへの刊行形態変更、同一書名の発行元変更などがあるためで、例えば『鬼女面殺人事件』(初出1981年)は、出版社や刊行形態が変わり5社から7回も刊行された。
90年代から2000年代にかけての2時間ドラマ全盛期、風光明媚な景色や実際に存在する列車にサスペンスを取り込んだ西村氏原作のドラマは人気があり、何十点も制作された。
長年に渡って読まれてきた作品もあるが、年を経るごとにブルートレインの廃止、ダイヤ改正、廃線などで、その刊行当時のトリックを実現できなくなることもあり、市場在庫から姿を消す作品もあった(現在は電子書籍で読むことができる作品もある)。
西村氏は新作の制作には意欲的で、年に数回自ら旅行に出かけ、現地取材を行っていたという。『特急「志国土佐時代の夜明けのものがたり」での殺人』(カッパノベルズ、21年刊)といった新しい列車がデビューするとそれにまつわる作品をリリースしたり、『伊豆箱根殺人回廊』(ノン・ノベル、21年刊)では、コロナ禍においての作品を書いたり、常に時代に沿った作品を発表してきた。
そんな西村氏のトラベルミステリーの新作を今後読むことができないと思うと非常に残念だ。(川瀬)