公益社団法人 全国出版協会

出版科学研究所

出科研コラム

歴史ある書店発の「新風賞」から垣間見る世相

 地域の文化の発信拠点。人と本が出逢う場所の書店。書店新風会は「出版界に新風を」をモットーに、東京都区内を除く全国各地方を代表する伝統ある書店が結集したネットワークで、60年以上前の1958年に設立され、郷土の文化活動を支援するなど、地域文化振興をめざした活動は地域の厚い信頼を得ている。
 また、同会は、時代の思想・潮流を先覚し、斬新な出版活動によって読者に感銘を与え書店店頭活性化に貢献した出版物を顕彰する「新風賞」も主催している。
昨今、「本屋大賞」が書店発の賞として話題になることが多いが、このコラムでは1966年にスタートした歴史ある書店発の賞「新風賞」について紹介したい。

 賞の歴史を振り返ると当時の世相が見えて興味深い。
第1回受賞作は『氷点』。朝日新聞が募集した懸賞小説に当選した本作は、三浦綾子のデビュー作で代表作でもある。新聞連載が終了した翌日に単行本化され、ラジオドラマや演劇・映画などブームを巻き起こした。70年代は、第8回(73年)には小松左京『日本沈没(上・下)』が、第9回(74年)は『ノストラダムスの大予言』が受賞。当時は、日本の総人口が1億を超え、高度経済成長を経て大量消費と廃棄等から公害問題が生活者に身近になった時代である。
 80年代目前の1979年、第14回受賞作は『サザエさん うちあけ話』。この年、特別賞が設けられ灰谷健次郎『兎の眼』が受賞。若者はインベーダーゲームに夢中になり、ソニーのウォークマンが発売された年でもある。1980年代は、テレビや雑誌といった大衆向けのメディアが栄えた時代。因みに、日本における戦後ベストセラー第1位に輝き続ける『窓ぎわのトットちゃん』は、第16回(81年)の受賞作。その後迎えるバブル景気に沸いた時代の受賞作は、辞典、占い本、歌集、小説など少量多品種の出版界らしい幅広いジャンルとなっており、1990年代は、写真集や分冊百科もラインナップに加わった。
 第35回(2000年)は『ハリー・ポッター』シリーズが受賞。この年、読書推進活動に縁の深い講談社「本とあそぼう 全国訪問おはなし隊」と「朝の読書推進協議会」が特別賞を受けた。2000年代に入ってからの受賞作は、作品のみならず著者についてもダイバーシティやグローバル化が鮮明になってきている。第51回(16年)には、絵本『このあとどうしちゃおう』が受賞し、絵本の読者が子どもだけでなく大人にまで拡大していることが裏づけられた。第53回(18年)『漫画 君たちはどう生きるか』。第54回(19年)『こども六法』。
 直近の第56回(21年)は『スマホ脳』。コロナ禍で在宅勤務やオンライン授業が増え、教育現場もGIGAスクール構想が前倒しになるなど、スマホやデジタルツールに触れる時間が長くなっている。多くの人が、スマホが脳に与える影響について高まる関心と不安で本書を手にしたに違いない。受賞した新潮社は、昨年第55回『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』に次ぐ2年連続の受賞。これは新風賞初の快挙だ。
 刻まれる歴史には、確かに新風が吹いている。(加藤)

「新風賞」受賞作一覧(リンク)

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