公益社団法人 全国出版協会

出版科学研究所

出科研コラム

Webから生まれる小説

 Webサイトから生まれた小説コンテンツの出版が非常に活発だ。特にスマートフォンが普及した2010年代以降、「小説家になろう」(ヒナプロジェクト、2004年~)、「エブリスタ」(エブリスタ、2010年~)、「カクヨム」(KADOKAWA、2016年~)などの小説投稿サイト(投稿・閲覧機能があり、投稿者と読者でコミュニケーションができる)で人気の高い作品を書籍化する動きがここ10年ほどの間に急速に広がり、点数も激増した。

 これらは「異世界転生」をテーマにしたファンタジー小説が大半を占め、刊行形態も当初は単行本が中心だったが、文庫本での刊行も増え、膨大なボリュームとなっている。 単行本に限定したWeb発小説の新刊点数を見ると、2013年は255点だったが、15年758点、16年1,088点と激増。20年は1,393点とこの7年間で約5倍以上の増加となった。

 売れ行き状況を書店店頭のPOSデータを見ると、15年60%増、16年20%増、17年13%増、18年11%増、19年2%減、20年前年並み、で推移している。参入社の急増もあって飽和状態となり、新しいヒット作が出にくくなったことで、19年以降は伸びが止まった。

 また、POSデータで文芸単行本全体に占めるWeb小説の割合を見ると、20年は冊数ベースで43.7%、金額ベースで37.2%を占める。文芸書において4割以上のシェアを占めていることは驚きだ。

 代表的なヒット作品は、「オーバーロード」(KADOKAWA)、「転生したらスライムだった件」(マイクロマガジン社)、「月が導く異世界道中」(アルファポリス)など、アニメ化され、巻数を長く重ねるシリーズ作品だ。小説の書籍化→コミック化→アニメ化がヒットの必須条件となっており、コミカライズも激増している。コミックの場合は電子化されることでさらに人気が高まり、読者を拡大している。

 小説の読み方、生まれ方はWebを起点に多様化が進んでいる。現在、その人気は異世界、ファンタジージャンルへの偏りが見られるが、投稿小説サイト内には児童書など書籍化があまりされていないジャンルは数多くある。Web発小説の世界では今後、さらに新しいムーブメントが生まれるかもしれない。(久保)

               

 Web発小説の詳細な市場動向については、『出版月報』2021年9月号の特集をぜひご参照ください。

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