公益社団法人 全国出版協会
先日、書店を見て気がついたのだが、比較的大きな書店でも「新書ノベルズ」の棚がかなり縮小されている。「ノベルズは新刊しか置いていない」という店が多い。
「新書ノベルズ」とは、新書判の小説、あるいはそのシリーズのこと。80~90年代にかけて、赤川次郎、西村京太郎のミステリ、田中芳樹のスペースオペラ、荒巻義雄の架空戦記、ハーレクインロマンスなどが毎月大量に刊行され読まれてきた。
当時は、どの書店にもノベルズの棚が少なくとも1本はあった。また、駅のKIOSKでも回転棚にノベルズが置かれていた。しかし今はどちらも縮小、あるいは見かけなくなった。その動向が気になったので、今回はノベルズについて新刊の統計から探ってみた。
1996年~2000年までは、ノベルズが新書判書籍(児童文庫を除く)新刊点数の約6割、新刊発行部数では約7割を占めていた。しかし年々減少し、2007年になると点数で5割、新刊発行部数で6割を切り、2013年以降は点数・初版発行部数ともに3割を切っている。2020年には発行部数が18年ぶりに前年を上回ったが、これは『鬼滅の刃』のノベライズ2点(JUMP j BOOKS)が大部数で刊行されたことが要因であり、一過性のものと見ざるを得ない。
国内作家のノベルズが大きく減少している一方で、翻訳のノベルズは比較的安定して刊行されている。2011年と2020年を比較してみると、1年間に刊行した国内作家の作品点数が2011年637点から2020年154点と約500点も減少したことに対し、翻訳のノベルズは2011年430点から2020年は285点。2015年以降は、国内作家の作品を上回る点数が刊行されている。その約9割を占めるのが「ハーレクイン・ロマンス」(ハーパーコリンズ・ジャパン)を中心としたロマンス小説だ。
原書は、アメリカ、イギリス、カナダで発行されたものであり、いずれもマスマーケットのペーパーバック版で刊行されている。つまり、その形態に合わせて日本翻訳版も刊行されているのだ。読者は40~50代が中心で、リン・グレアム、ダイアナ・パーマー、ベティ・ニールズなど、人気作家の作品は一定のファンが付いていることで初速が良く、当所発行『出版月報』の売れ行き良好書でも度々作品が登場する。
単行本よりも安く、文庫より書き下ろし作品が多いこともあって人気のあった新書ノベルズ。しかし、価格の上昇や文庫書き下ろしの作品が増加するなど、ノベルズであるメリットがなくなった。また2010年以降、スマホが急速に普及し、すき間時間の過ごし方が変わったことで、新聞やマンガ雑誌同様、ノベルズもその減少に拍車がかかったのである。
それでも長年刊行されてきたハーレクイン・ロマンス、国内の作品では架空戦記が中心の「C★NOBELS」(中央公論新社)などには、熱烈なファンがいる。
忘れないで、新書ノベルズのことを。(川瀬)