公益社団法人 全国出版協会

出版科学研究所

出科研コラム

ビジネス書と「YouTube」

ビジネス書の売れ行きがここ数年好調だ。書店店頭の売れ行きは、2018年から20年にかけて3年連続で前年を上回っている。自己啓発書、会話などのコミュニケーションに関する本、マネー本など売れる本が多様化し、読者にも広がりがみられる。

19年頃よりビジネス書を売り伸ばす大きな要素となっているのが動画サイト「YouTube」だ。タレントの中田敦彦(21年7月現在のチャンネル登録者数396万人)や起業家のマコなり社長(同94.4万人)など著名な“教育系YouTuber”が自身の動画チャンネルで紹介したビジネス書の売れ行きが急伸するケースが増加している。 『FACTFULNESS』(日経BP発行/日経BPマーケティング発売)や『完訳7つの習慣』(キングベアー出版)、『ゼロ秒思考』(ダイヤモンド社)、『本当の自由を手に入れる お金の大学』(朝日新聞出版)などが代表例と言える。このほか『嫌われる勇気』(ダイヤモンド社)や『「繊細さん」の本』(飛鳥新社)なども同様で、現在、ビジネス書ランキングの上位タイトルは、「YouTube」で紹介された書籍が大半を占める状況にある。

これらの動画では、「お金」「健康」「メンタル」などテーマ別に、本の要点や読みどころを約20分で解説している。特に中田敦彦の影響力は非常に大きい。再生回数が200万~300万回に達した同氏の動画で紹介された本は、50万部超に伸びた作品が多い。なかでも“お金が増える”など実利的な内容の書籍は伸びが目立つ。一方で美術、カルチャー系書籍の紹介も多いが、これらはビジネス書ほどの盛り上がりは見られない。

YouTuberのチャンネルに新しいファンが増えると、新規登録者が過去配信の動画もさかのぼって見ることで、以前に紹介された書籍が再び売れるケースも出ている。YouTubeでの露出は「売れ行きの影響が長期にわたって続く」ことも特徴の一つだ。また、出版社が仕込んだPR動画ではなく、インフルエンサー自らが良いと思った本を紹介するリアリティも売れ行きにつながる要因だ。

新型コロナウイルス感染症の影響で外出自粛が長期化し、動画配信サイトの再生回数は増え続けている。ビジネス書と「YouTube」の相性の良さ、売れ行きへの相乗効果は今後も注目される動きだ。

ビジネス書がいまなぜ売れるのか、その市場動向については、『出版月報』2021年6月号で詳しく特集しておりますので、ぜひご一読を!  https://shuppankagaku.shop-pro.jp/?pid=161329358

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