公益社団法人 全国出版協会

出版科学研究所

出科研コラム

自費出版というもの

ここ数年トラブルが目立つ自費出版。06年の碧天舎に続き、08年1月には新風舎が倒産した。同社は当初民事再生法による再建を目指したが、予定されていた支援企業が支援断念を表明し、破産手続きに移行した。同社が著者1,000人から集めた前受け金は10億円にも上るという。

新風舎が一部の著者から提訴されていた例にも見るように、当研究所にも自費出版に関する相談が数多く寄せられている。最も多いのは「自著の出版に金銭を要求されているのだが、それは普通か?」という問い合わせだ。多くの著者は商業出版と自費出版の違いすら分からないまま、自費出版契約を結んでいる可能性がある。

では、商業出版・自費出版の違いはどこにあるのか。

通常商業出版では、出版社が著者に原稿料を支払い、制作費も負担する。出来上がった刊行物を読者に購入してもらい、出版社はそこから利益を得るシステムだ。一方自費出版では、著者は100万円単位の料金を出版社に支払う。出版社はその料金の一部を制作費に充て、また、その中から出版社としての利益をも得る。商業出版と自費出版とでは、ビジネスモデルが根本的に異なるのだ。

つまり、出版社が商品価値を認めた作品に先行投資を行うのが商業出版、自著の出版を志す著者が経費を負担し、出版社に本の形にまとめてもらうのが自費出版ということになる。「共同出版」「協力出版」など呼び名を変えても、その実態は同じ自費出版だ。

では何が問題なのか。自費出版物にISBNコードをつけ、「あなたの本が全国の書店で販売される」と、著者に夢を抱かせたことだ。初版500部程度の新刊が全国津々浦々の書店に配本されるなど、数的に有り得ないこと。プロの作品ですら売れない時代に、素人の著作が売れる可能性はきわめて低いことなど、出版業界の人間であれば想像に難くない。しかし出版事情に疎い素人作家は、「すごい才能」「埋もれさせるには惜しい」と巧みな営業トークに夢を膨らませ、結果的に“騙され”てしまっている。

自費出版自体は悪いことではない。大抵の出版社には自費出版の窓口が設けてあるし、自費出版からメジャーな作家が生まれる可能性もある。本を出したい、という夢を叶えるひとつの手段でもある。だがここまでトラブルが起こっている以上、出版社の説明責任は当然としても、著者の側も自衛としての情報収集は不可欠といえるのではないだろうか。

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