公益社団法人 全国出版協会

出版科学研究所

出科研コラム

「本離れ・活字離れ」は本当か

出版を語る際、枕詞のように使われるのが「本離れ・活字離れ」という言葉だ。しかし、人々は本当に本や活字から離れているのだろうか。

例えばその論拠として、当研究所が発表している出版物推定販売金額が引き合いに出される場合がある。出版市場規模を表すこの金額は、96年の2兆6,564億円をピークに、確かに右肩下がりの状態にある。しかしこれは、主に取次ルートを通って新刊書店で販売された出版物の推定販売金額である。最近伸びが著しいと報じられる新古書店や、公共図書館や学校図書館での閲覧の先にいる読者の数は含まれていない。

人々の読書傾向は、毎日新聞社と読売新聞社が毎年行っている読書世論調査に見ることができる。

毎日新聞社が10月末に発表した「第61回読書世論調査」によると、07年の総合読書率は、昨年より3ポイント増えて75%だった。この総合読書率、1956年からおよそ70~75%の間で推移しており、この50年間大幅に下がったということはない。書籍に限った読書率は、同3ポイント増の49%。1965年以降はおよそ45~55%で推移しており、約半数の人が書籍を読んでいるということになる。書籍の読書率はその年のヒット作に大きく左右される面があり、例えば近年では山口百恵の『蒼い時』や『ノストラダムスの大予言』がブレイクした80年や、『チーズはどこへ消えた?』、『金持ち父さん貧乏父さん』、『話を聞かない男、地図が読めない女』、「ハリポタ」シリーズなどが大ヒットした01年には、60%近くにまで伸びている。普段本をあまり読まない人でも、思わず手に取るようなヒット作が出ると、書籍の読書率はグンと跳ね上がるようだ。

本離れ・活字離れの代表格のように言われる若者層を対象とした同「第53回学校読書調査」でも、小中高校生の読書率はむしろ上がっている。博報堂生活総合研究所が今年7月に実施した生活調査でも、「今したいことは何か」の問いに対し、「山のように読書をしたい」と答えたティーンネイジャーが22.8%(前年より7ポイント増)もいたそうだ。

こうしてみると「本離れ・活字離れ」は、どうも言葉が独り歩きしている観が強い。

マスコミで言われているほど、人々は読書から遠ざかっているわけではなさそうだ。

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