公益社団法人 全国出版協会

出版科学研究所

出科研コラム

名作や古典、復興のうごき

ここ数年、名作や古典と呼ばれる文学作品が、改訂版/新版として刊行される例が目に付く。売れっ子作家の小説と比べてしまうと部数レベルが低いため、ベストセラーリストなどには掲載され難いが、ヒットと呼べるものも現れている。

顕著な例として挙げられるのが、ドフトエフスキーの名作を新たに訳出した光文社古典新訳文庫『カラマーゾフの兄弟(全5巻)』(光文社)。同書は06年9月に第1巻を刊行、07年7月に第4~5巻が発売されて完結した。新聞広告などが奏功して第1巻から好調な売れ行きを示し、全5巻の累計は07年8月末で30万部超という。わかりやすい現代語に徹した新訳はリズムと勢いがあり、驚くほど自然に読める。

海外名作小説の新訳は、これまでもさまざまなものが刊行されてきた。代表的なところでは村上春樹の推薦・新訳で売れた『グレート・ギャツビー』(中央公論新社)や『ロング・グッドバイ』(早川書房)、児童書でも評論社の「ロアルド・ダール コレクション」(05年~)などが挙げられる。新聞広告や著名作家の推薦、映画化原作など、これら新訳ものにはいずれも話題性があった。しかしそれ以上に、新訳の読みやすさが一般読者に好評だったのだ。

絶版にした文学作品の名著を復刊する動きもある。新潮社は07年7月から、柴田翔『贈る言葉』などを皮切りに名著の復刊を開始。復刊版は活字を大きくしてルビを増やした。

これらに共通しているのは、既存コンテンツの再加工という点だ。普遍的な文芸作品は、時代を経ても十分に通用する。フォントや版組みなどの版面や文章(翻訳)などを今風に再加工し、新刊として刊行し直すことで、新たな商機を得ることができる。

名作・古典ものは現在、幅広い年齢層に買われているという。中高年層には再読や、若い頃挫折した名著への再挑戦となり、名作・古典に初めて触れる若者層には、新鮮に受け止められているようだ。

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