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出版科学研究所

出科研コラム

時代小説があたらしい!

白刃が鎬(しのぎ)を削り、武士の意地がチャンチャンバラバラとぶつかり合う時代小説。中高年男性にはお馴染みでしょうが、若年層、特に女性になるとどうでしょうか。「時代小説はオジサンが読むもの」なんて決めてかかっていませんか?それこそとんでもない「時代」錯誤です。

確かに時代小説は、長いことオジサン達のためのジャンルでした。大御所と呼ばれる池波正太郎や司馬遼太郎を始めとする作家達を中心に、武芸に重きを置いた剣戟が中心となった、男くさい世界だったのです。

曰く、世間(家族も含む)が何と言おうと己が信じた道を究める。御家(主家)のために身を犠牲にして不条理に耐える。現代サラリーマンの立場や苦悩に通じるテーマや理想が盛りだくさんだったのです。

この流れが変ってきたのは00年ごろから。時代小説に新しい書き手が現れたことがきっかけでした。その新たな時代小説の旗手とも言えるのが佐伯泰英です。

佐伯泰英はもともと、冒険小説や国際謀略小説を書く作家でした。著作の売り上げが伸び悩み、担当編集者から「あと先生に残されたジャンルは時代小説くらいでしょうか」と言われ、99年に初の時代小説『瑠璃の寺』(文庫化の際に『悲愁の剣』に改題)を発表。一躍時代小説作家として人気が爆発したのです。現在はほぼ全ての文庫でシリーズを持ち、毎月新刊が刊行されるほどの売れっ子ですが、その転身には長い苦難の道のりがあったわけです。佐伯泰英以外では井川香四郎、荒崎一海、また山本一力などが人気です。

注目すべきは女流作家の台頭で、藤原緋沙子、澤田ふじ子、畠中恵、宇江佐真理、北原亞以子と言った人気作家が誕生しています。これら女性作家の影響からか、時代小説は内容も従来の無骨な剣豪物から、世話物の要素を多く取り入れた剣豪物や捕り物などに変化しています。表紙などもソフトな印象のものが増え、より幅広い層にアピールする作品が増えました。以前よりも多くの時代小説を平台に並べる書店も出てきています。

時代小説は舞台設定こそ昔ですが、そこに描かれている人間の心理や立場、辛さや喜びといった核心の部分は、現代と何ら変わりません。「時代小説はオジサンが読むもの」と決め付けずに、一度手にしてみては如何でしょうか。案外、ハマるかもしれませんよ?

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